【ミャンマーにマインドフルネス瞑想が登場してきた経緯4】新しい流れと伝統の維持

2020年3月31日火曜日

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 目次
・祖国を追われた伝統式ヴィパッサナー
・原点回帰するヴィパッサナー


祖国を追われた伝統式ヴィパッサナー

「坊さんの衣を着ていれば、どんなぐうたらでも土下座して尊敬するが、一般人の格好をしていれば、たとえ預流果に達した聖者であっても絶対尊敬しない」それが出家至上主義のミャンマー人気質というのものである。

 筆者はミャンマー人女性で在家のまま悟り、瞑想指導している人たちを2人知っている。しかしミャンマー人たちは、そんな彼女たちの事は決して尊敬する事はなかった。また、男尊女卑の風潮もしっかり残っているので、彼女たちが「男性様」に教える事はなかったし、男性修行者たちも彼女たちから教わろうとはしなかった。わずかに民主主義の国から来た野郎どもだけが、彼女たちに頭を下げて教えてもらっていた。だから、在家の瞑想指導者だったウ・バキン師も、そのようなミャンマー人気質には苦しめられていた一人だった事は想像に難くない。

 1950年代のミャンマーの僧院と言えば、誰もが床の上に直接座り、油汗をかきながら「ウンウン」と足の痛みの生滅する様子を観察していた事だろう。よく考えてみたら何とも奇妙な光景には違いない。「これが瞑想なのか?」そんな声が挙がってもおかしくない。

 だが、そんな新しいヴィパッサナーに押され、それまであった伝統的な方法で修行する人の数はめっきりと少なくなってしまった。修行道場の中にはそれまでのやり方を捨て、新しいヴィパッサナーに看板を掛け替える所も出て来た。何しろ凄い効果で解脱・悟りに達した聖者を続々と輩出するのだから、これに飛びつかない奴は愚かというのもの。そんな感じでミャンマー仏教徒たちは新しいヴィパッサナーによる「ジャーナ狂騒曲」にすっかり酔いしれていた。

 「ブッダは足の痛みの生滅を観察してジャーナに入れなんて一言も言ってねーわ」だが、そんな時でもウ・バキン師は決して伝統的なやり方を捨てたりはしなかった。師は「足の痛みの生滅狂騒曲」に沸く人々を尻目に、在家者のために新しい修行システムを構築しようとしていた。

 師は新しいヴィパッサナーには疑問を持つ一人であり、あくまでもブッダの教えに忠実であろうとしたため、新しい時代の流れに流される事はなかったのだ。だからほとんどの道場は、この時代に起こった新しい流れに呑み込まれてしまったにもかかわらず、ウ・バキン師やゴエンカ師の道場だけは辛うじて伝統の灯を守り通す事が出来た。そのためミャンマーに今でも残っている伝統派の道場は、彼らや彼らの弟子たちのものぐらいしかないと思われる。

 これはまた同時に、新しいヴィパッサナーへの移行の動きがどれほど凄まじい強烈なものであったかをも物語っている。しかし、そこまでして伝統を守った師であったが、在家者であったため、ミャンマー人たちからはそれほど認められる事はなかった。

 そんなミャンマー人気質と、その時代の風潮があったためか、師の目は海外へと向けられていった。そしてゴエンカ師という名指導者を得て、ミャンマーの伝統式ヴィパッサナーは海外へと持ち出され、ミャンマー国外で大きく花開く事になる。

 そんな事でミャンマーではほとんど絶滅してしまった伝統式であったが、異国の地で外国人たちの手で維持され、広められる事となったのだ。欧米で大人気のゴエンカ式の方法が、祖国のミャンマーではそれほど修行されていないのは、そのような事情があったためだった。




原点回帰するヴィパッサナー 

その辺りにミャンマー人がいたらちょっと尋ねてみて欲しい。「瞑想をやっていて足が痛くなったらどうやって観察するか?」と。そしたらミャンマー人なら必ずこう答えるだろう。「ポウライ・ピャウライ」(生滅)と。

 戦後に始まったヴィパッサナー改革の動きは、数年後にはミャンマー全土に広がり、そのままミャンマー人たちの生活にまで浸透していった。この「ポウライ・ピャウライ」つまり「生じたものは必ず滅する」という物の見方、考え方は、すっかり人々の心の中にも定着していったのだ。

 そんなかんじで、戦後40年して「足の痛みの生滅ジャーナ」の瞑想法は、もはや新しい方法ではなくなり、「その方法で修行するのがミャンマーの仏教徒」というぐらいにまでミャンマーに根づいてしまった1980年代、また新たな動きが仏教界の注目を浴びた。

 今度はサマタでジャーナを目指す方法が登場したのだ。元々サマタでジャーナを目指す事には抵抗をおぼえるミャンマー人仏教徒たちであったが、そのやり方を聞いて少し安心した。仏教の教義を論じた「アビダンマ」に記載された仏教の伝統的なサマタ瞑想と全く同じだったからだ。

 「仏教の伝統的なやり方なのであれば構わない」そして、その修行者たちは戒律を厳格に順守するとあればもうミャンマー人たちもその方法を認めないわけにはいかない。

 その方法こそがパオ式であり「ポウライ・ピャウライ」が痛くて苦手だと言う人々や「やっぱり仏典にないジャーナの方法より、仏教の正統なやり方で修行したい」という人々に大歓迎される事になる。

 だが、それで面白くないのは「ポウライ・ピャウライ」側の方だった。パオ瞑想センターとマハーシ瞑想センターとは以後対立するようになり、批判合戦を始め、それは訴訟合戦にまで発展し、両者の絶縁状態は今日に至るまで継続中となっている。

 また、それまでマハーシ瞑想センターでマハーシ・セヤドーの片腕として働いていた最古参の指導者が突如としてマハーシから脱退、足の痛みの生滅ジャーナ瞑想を捨てて「大念住経」へと還った。この指導者はシュエウーミン・セヤドーことウ・コーサラ長老といい、ポウライ・ピャウライの良い面も悪い面も熟知し過ぎるぐらい熟知している人だった。果たしてそこにはどんな事情があったというのか?

 戦後、多くの名指導者の登場により、見事に復興を遂げたミャンマー仏教であったが、今度はそれが原因で新たなる問題を引き起こす事となった。様々な瞑想流派が乱立した事でそれらが対立し、いがみ合い、宗教戦争の様相を呈するようになったのだ。それは異なる瞑想法をとるライバル同士の間のみならず、同門の兄弟弟子同士までもが批判合戦を繰り広げて反目し合う泥沼の戦争となった。そのため民衆はその度に指導者に振り回される事となり、ミャンマー仏教はもはや収集のつかない状況に陥った。

 「悟っているはずの人々がどうしてそんなにいがみ合うのか?」当然のように一般の人々はそのような疑問を持った。

 「ジャーナを使って悟ると偏狭で攻撃的な預流者(聖者の第一段階)が出来上がる」

 そうだ、ジャーナを使って一気に悟ってしまうのはいいが、思考や感情を抑圧し、心理プロセスを無視して集中没頭したツケは、後になって必ず払わなければならない。ジャーナ瞑想を修行する事は、全然回りの事が見えない攻撃的な聖者になってしまう危険性を含んでいたのだ。

 そんな事だから悟りに達する人が増えたのはいいが、それは同時に偏狭で攻撃的な指導者の増加をも意味した。指導者たちは、そうなってしまったら当然考え方の違う人とはいがみ合う。他流派、兄弟弟子を問わず徹底的にいがみ合わずにはいられない。もうそのような人間になってしまったのだから。

 シュエウーミン・セヤドーは、指導すべき立場にある者たちがそのようにしていがみ合い、怒りをあらわにしていては、民衆に悪影響を及ぼすとして、ポウライ・ピャウライを封印した。そして弟子たちに「瞑想はジャーナを目指すために修行するのではない。自分をじっくり見つめて人格を向上させるためにやるものだ。足の痛みなんか見て性格は良くなるのか?」と訴えた。

 そのようにして登場してきたのが、今で言うところのマインドフルネス瞑想であった。このマインドフルネス瞑想であれば、ジャーナ瞑想のように速攻で悟れる事はないけれども、自らを見つめ切って来た分、悟っても決して偏狭で攻撃的な人間になる事はない。ミャンマーにマインドフルネス瞑想が登場してきたいきさつはそんな必要に迫られての、いわば歴史の必然であったのだ。

 だから現在ミャンマーで流派間を超えてカリスマ的人気を誇る「ヨー・セヤドー」ことウ・シリンダービワンサ長老とウ・ジョティカ長老という二人の指導者は、共にこのシュエウーミン・セヤドーの門下から出ている。二人とも全く怒らない。

 そのようなかんじでミャンマー仏教徒たちは、8割方はまだ新しいヴィパッサナーの方を信奉しているものの、2割方はそれについて行けず「アビダンマ」や「大念住経」へと戻ってきた、つまり原点回帰したのであった。

 紆余曲折を経て、現在ミャンマー仏教には伝統式、スンルン式、モゴ式、マハーシ式、テーイングー式、パオ式、シュエウーミン式と、有名な瞑想法が7つほどある。小ぢんまりと普及しているものまで含めると、数え切れないほどになるが、では次にその7種類の瞑想法がどのようなものであるかを見てみたい。

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  最終更新日 2023.12.31

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