【ミャンマーで出逢った修行者たち#01】痴漢坊主を撃退した修行者  

2020年8月21日金曜日

修行者列伝

t f B! P L



このシリーズでは、各地の瞑想センターで実際に出会った特筆すべき修行者たちを紹介していきます。一人一人の修行者から学ばせていただいたことが少なからずあり、敬意をもってここに綴らせていただきます。



Wさん 日本人 30代女性 


 2004年8月、この時期のC瞑想センターは、厳しい鬼管長が瞑想指導のために海外に出かけていて留守だった。

 外人が多いこの瞑想センターには4階建ての外人用宿舎があり、そこは1階が女性用宿舎、2階が女性用瞑想ホール、3階が男性用瞑想ホールで、4階が男性用宿舎となっていて、Cに来る外人たちはみんなこの建物に泊まり込んで修行するようになっていた。

 そして当時は彼らの瞑想センターでの生活をサポートするためにLという外人の世話係の比丘がいて、4階で外人男性たちと寝起きを共にし、わからない事を教えてやったり、戒律を破らせないように目を光らせたりしていた。

 だが困った事にこのL、見たところかなりのスケベ坊主で、若い女性を見ると直ぐ「おいキミ、ちょっと法を説いてあげるから来なさい」と頼んでもいないのに呼びつけては4階まで連れて来て、仏教の教義を教えるふりをしては二人きりになり、女性にやたらと接近してはダラダラと長時間に渡って同じ事ばかり話しているのが好きだった。

 しかも自分はドッカとソファーに座り、女性たちを足元にひれ伏させる「ご主人様とメイドたち」のポーズで。それが始まると外人の男性修行者たちは「おいおいLの奴またやってるよ」と囁き合うのがいつものお決まりのパターンになっていた。

 まったくスケベ聖職者というのはどこの宗教にもいるもんだ。そしてこのL、いつもの厳しい管長がいなくなって、この時は弛んだ顔がいっそう弛み上がっていた。そしてそこにタイミングよく登場したのが日本人女性のWさんだった。タイミングよくというのは、Lはどうやら色白女性が好きらしい事がわかっていたからだ。



写真はイメージです 


 色白美人のWさんはミャンマー在住で、仕事の合間をみてはちょくちょくCに座りに来る言わば常連さんで、ミャンマーの習慣にも精通していた。

 そのWさんが早速2階の女性用の瞑想ホールで 瞑想を 始めると、 ちょうどそこを Lが通りかかった。時刻はまだ昼休みで 女性用瞑想ホールには Wさんの他には 誰もいない。 するとLは ズカズカと女性用ホールに入ってきてWさんに近づき、瞑想中の Wさんに「 呼吸は 観察 できるか?」と 声をかけた。

 一方のLさんは「瞑想を妨げる人がいるなんて信じられない、一体誰が?」と驚いて目を開けた。そしたら何とそこには比丘であるLが立っていた。

 更にLは「呼吸がよく見えない時はお腹に手を当ててごらん、よく判るようになるよ」とLさんが着ていたTシャツをまくり上げ、おもむろにWさんのお腹に手を当てた。

 「な、な、な、何をするんですか?止めて下さい!!」慌ててLの手を払いのけるWさん。だがLは「指導だよ指導!教えてやってるんだよ!駄目だよちゃんと言う事を聞かないと!」とあくまでも指導を強調し、更に触ろうとする。

 「嫌だ!何よこの人!」脱兎の如くその場を立ち去るWさん。「キミイ!待ち給えよ」指導に従わない修行者をたしなめるかのように顔をしかめるL。

 その直後、Wさんが1階の外人女性用宿舎の入口の前にいた韓国の尼さんや台湾の尼さんたち3〜4人に、たった今Lにされた事を訴えていると、今度はそこにLが大慌てで降りてきた。そしてWさんの話に割って入り「な、何を言ってるんだねキミイ、私がそんな事する筈ないだろう、私は比丘なんだよ比丘」と、どこまでも指導を強調した。

 だがWさんは「いい加減にして下さい!瞑想を指導するのにどうして身体を触る必要があるんですか!しかもシャツまでめくり上げて」と絶対にLのヘタな言い訳を赦さない。そして更に「見て見て、ホラ、この人直ぐトボケるでしょ!」と尼さんたちにLのプリテンダーぶりを訴えた。

 しかし、何とした事か!その時だった!Wさんは尼さんたちの視線に何やら異変を感じた。どうも彼女たちの態度がおかしい。Wさんの訴える事を何やらシラケた顔をして聞いている。そして信じられない事に一方のLの言い分の方には「うん」と大きく頷いてる。「ど、どうしたの?みんな・・・」

 そして台湾だか韓国だかの尼さんが呆れたような顔をしてWさんに向かっておもむろに口を開いた。「アンタお坊様がそんなハシタナイ事をする筈がないじゃないの!それって指導でしょ?駄目よアンタそんな失礼な事言っちゃ!謝りなさいよ」と。

 「ガーン!な、何で彼の味方するの?あんたたち正気なの?何それ?」あまりの事に茫然とせざるを得なくなったWさんだった。






 宗教家が、女性信者を教義で縛って逆らえないようにしておいてから、性的な虐待や暴行を加えるという事件は、宗教の団体であればどこででも起こりうる。宗教家は信者の精神をその気になれば簡単に支配出来る立場にあるのだから。そして実際にこのような卑劣なやり方を使う宗教家はどこの団体に行ってもいる。テーラワーダ仏教の世界とて例外ではない。

 しかしこの場合更にややこしいのは、信者たちが被害者の言う事を信じず、宗教家の味方に付いてしまう事だ。盲信者たちは宗教家の言う事を信じたいから被害者の訴えよりも宗教家のウソに惹かれる。「盲信」これが宗教の一番恐ろしい所だ。

 Cにいた女性修行者達もご多分に洩れず、Wさんの訴えに全然耳を貸さず、そればかりかWさんに「そうよ指導よ、指導に決まってるでしょ。あんた被害妄想か何か持ってるんじゃないの?しっかりしなさいよアハハ」と言って背中を叩いて笑い始めたのだから話にならない。

 「ウ、ウソ・・・」誰からも訴えを信じて貰えず孤独に陥ったWさん。しかしWさんはミャンマーの比丘たちの習慣をよく知っていた。彼らはいつでも戒律を順守し、決して女性には触れないように気をつける。女性と車に乗る時などは、決して並んで座ったりせず、前後に別れて座るように配慮する。

 「ううん!やっぱりあんなの指導の筈がない!絶対アイツ変態坊主よ!」必死で気を取り直そうとしたその時、外人女性用宿舎の前をドヤドヤと数人の外人男性たちが通りかかった。彼らはみんなレジ袋を持っていた。どうやら買い物に行ってきたようだ。
 
 そして宿舎に入ろうとしたら1階の入口の前で女性修行者たちが揉めているので「どうしたの?」と声をかけた。韓国の尼さんが韓国人男性らに何やら説明すると、Lの事を良く知る彼らは、Lの弁明を絶対に信じようとはしなかった。そして「またやってんのか」と顔をしかめて呆れたようにLの事を非難した。

 立場がなくなったLは大慌てで「み、みんな、修行だ修行!もう座る時間だぞ!いつまでも話してるんじゃない!」とみんなを追い散らし、自分は何処かへ逃げて行った。「私、指導者の長老に言ってくる!」Wさんはもうカンカンになって英語の出来るナンバー3の長老の所に訴えに行ってしまった。





 「長老に言ってきました」Wさんによると長老は訴えを聞くなり困ったような顔をして「そうか・・・またか。彼については以前も台湾人やインドネシア人女性らから同じ訴えを聞かされているんだが」と黙りこくってしまったそうだ。

 「こういう場合どうなるんでしょう?」と私。比丘が戒律を破ったらどういう事になるのか興味が出て来た。「ひと月後に管長が帰ってから処分が下されるそうですよ」とWさんも厳罰を望んでいる。日本だと痴漢は50万円以下の罰金から重ければ六か月以下の懲役が課せられるという。仏教の世界ならどういう事になるのだろう?言っちゃ悪いが興味津々だ。

 男性用宿舎内にも噂は広まり、当時10人ほどいた外人男性たちはみんなLを白い目で見るようになっていた。ある時タイの40代ぐらいの坊さんと20歳ぐらいの若い坊さんとが話をしていると、そこへLが来て「こらっ、話をするな」と注意した。瞑想センター内では修行者同士の会話は原則として禁じられているからだ。

 しかしその時40代の坊さんは、無言で両手で空中に女性のボディラインを描き、胸をモミモミするジェスチャーをしてみせた。そしてLを指差して私に「コイツこんな事したんだぞ」みたいな顔をした。

 別にそこまではやっていないのだが、噂が噂を呼び、話が大きくなってしまっているようだ。また、ある韓国人青年は夕方だというのにパンを片手にモグモグやりながら部屋から出て来た。瞑想センターでは午後は一切食事をとってはいけない事になっているにも拘らず。しかも人前で堂々とやっている。

 当然Lはそれを見るなり「こらっ食べるな!何時だと思ってる」と注意した。だが韓国人青年はLの言う事になど全く耳を貸さず、無言で思いっきりシラケた顔をしてLの前でもモグモグ食べたまま、給湯器からカップにお湯を注いでまた部屋へ戻って行った。

 こうなるともうLの立場はない。もはやLに従う者は誰もいなかった。「痴漢」というレッテルを貼られ、修行者たちからは人格を疑われるL。だがどこまで行ってもLは決して自分の罪を認めず、あくまでも指導の一環として行ったと、Wさんの生腹へ手のひらをあてた行為を正当化し続けた。




 
 だがそのうちLはとうとう瞑想センターに居づらくなったようで「父親の体調が良くないから」と故郷の寺へと移って行った。「管長が戻るまで居て欲しかった」と私。「何で逮捕しないの?」と残念そうなWさん。どうも長老たちが共謀してLを逃したような気もするのだが?まあ我々も比丘が処罰されるのを見たがったりして趣味が悪いというもの。

 しかしWさんも一時は誰からも信用して貰えなくて戸惑ったが、それでも慌てずに対処できて何よりだった。盲信の尼さんたちに惑わされる事なく、Lに独りで立ち向かったというのが凄い。Wさんのこの冷静な対応がLを追い出したのだ。本当に狡猾なLによく丸め込まれなかったものだ。

 Lがいなくなった外人用宿舎では、メイドさんみたいに扱われるために連れて来られる不幸な女性信者は二度と見かける事はなかった。狡猾なLは信者たちの盲信を徹底的に利用した。だがWさんにはその手は通じなかった。なぜなら我々日本人は本当の仏教徒ではないのだから。

 Lはその手を使って今までどれだけ痴漢行為を働いてきたのだろう?その後聞いただけでも外人宿舎に泊まっていた女性たちの3〜4割ぐらいは何らかの形でLに身体を触られたり、密着されたりした経験があった。

 盲信は恐ろしい。宗教に関わる人はこの盲信だけは気をつけるようにしなければならない。そしてもっと恐ろしいのはそういう人々を利用して美味しい思いをしようとする奴らがいる事だ。しかしそんな奴らはいつか必ずしっぺ返しを喰らう。このLのように。




 では比丘たちは戒律を破ったらどういう罰則があるのだろう?Lが逃げてしまったため見る機会を逃したので、しょうがないから自分で調べてみた。まず大罪とされるのが性行為(異性、同性共に)、盗み、殺人、悟ったと嘘をついて人を騙すの4つで、これは即クビ、サンガから追放される。

 Lが行った性欲を満たす目的で女性に触る事は次に重い罪とされ、比丘たちの前で懺悔させられたり、その罪を働いた日数分だけ僧院で謹慎処分にされて、外出を禁じられるという。恥ずかしいね。だが日本の法律と比べたら随分軽い。



実際には糞真面目な比丘たち 


 こんな話をすると、ミャンマーの坊さん達はみんなイヤラシイみたいに思われれるかもしれない。だが実際には真面目なタイプが殆どなのだ。特にサマタ系の坊さんたちは戒律ガチガチで話にならない。Lのようなタイプは珍しい。

 坊さんの世界もネット社会になり、仏教を学ぶのも、信者さんとやりとりするのも、みんなパソコンひとつ、スマホひとつあれば簡単に出来る時代になった。だがそれと共に誘惑も多くなった。坊さん達が隠れてエッチな画像を覗く事も朝飯前になってしまったのだ。

 現在、ミャンマーの僧院では、そんな若い坊さん達の性の問題が徐々に問題に上がっている。Lはそのさきがけだったのかもしれない。そういう訳で、我々は今回、誘惑に負けて狂った坊さんの末路を見た。Lは今後立ち直れるのか?それとも還俗してしまうのか?それはLのキ○タマのみが知る。

画像出典
https://pixabay.com/ja/users/matryx-15948447/
https://pixabay.com/ja/users/counselling-440107/



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  最終更新日 2023.12.31

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