「門前の小僧習わぬ・・・」ではなく「寺の裏山の猿習わぬ瞑想を・・」
一生を仏道に捧げる
今まで何人か出家するつもりでほとんど無一文でミャンマーまで来た人を見ている。日本人が多いがカナダ人もいた。みんな修行意欲満々の人ばかりだ。そうだ、確かにお金に触れずに生活出来るのが出家というもの。
中には「一生を仏道に捧げるのだから、お金を持参して僧院へ行ったりしたら非難されるのではないか?」と思い、無一文どころか着替えすらも持たずに来た人もいる。
だがそれは早トチリだ。ミャンマー人ならまだしも、外国人である我々がビザ代を払わずに滞在出来る筈がない。これは全ての外国人の義務だ。これを払っていないと不法滞在者として罰金を払わなければならない事になる。
このビザ代だが、坊さんになって修行するつもりなら宗教ビザというのが必要だ。これは今まではミャンマー政府が仏教の布教の支援のために、年金200ドルという格安代金を設定してくれていた。だが、現在はこの代金表を見て頂きたい。
https://www.metelaviv.org/index.php/visas/religious-visa-single-a-multiple
何と、ビジネスビザやソーシャルビザ同様に月々50ドル近く取るようになってしまったではないか?何でいきなり他のビザは据え置きで、宗教ビザだけを値上げしたかのか?というと、そこには仏教徒とイスラム教徒との平等政策があるのだという。つまりイスラムの側から「政府が仏教を支援するのは不公平」と、クレームがついた訳だ。
しかし、この代金はまだ確定的なものではないという声もあり、もしかしたらまた変わる事もあるかもしれない。だから取り敢えず1年いるつもりなら、その450ドルなりは持っていないといけないし、外国人登録証明書(FRC)やら何やらで、年間約500ドルの出費は覚悟しておく必要がある。オーバーステイになると1月以内なら1日3ドルで済むが、それ以上になると1日5ドルになるので、ビザの期限切れには気をつけなければならない。
そして前回ミャンマーには本当の坊さんと一時出家の坊さんとがいる事をお伝えしたが、IDカードに「出家」と記載された本当の坊さんでなければ乗り物に乗る時の優遇措置は受けられないので、外人の坊さんは移動の度毎に運賃を支払わなければならない。
パオ瞑想センターのようなずっと定住出来る道場を除いて、大概の瞑想センターは滞在期限が設けられているので、修行者は旅から旅の遊行者のように、3か月から6か月毎に道場間を移動して回る事になるから、それで年間100ドルぐらいの出費になる。だから単純計算で年間最低600ドルぐらいは必要になってくる訳だ。
あとはスマホを使う人は通信費もかかるが別にそんなのは微々たるものだ。だから、ミャンマーで出家して瞑想修行をするにも、年間少なくとも600ドルはかかる事になる。実際には7、800ドルぐらいだろうか?それかける滞在年数分の費用が必要になる。
そんな訳で、長期滞在を考えている人は、ミャンマーでもお金を引き出せるように、海外ATMサービスを使える銀行を調べておいて、日本にいる時にあらかじめ手続きをしておいた方がいい。
私がミャンマーに来た2002年には物価も今の1/4だったし、坊さんはビザの延長は無料だった。修行者にとっていい時代もあったものだ。しかし今だって年間10万円以下で生活出来るのだから安い事には変わりない。
中には年金受給者の比丘というのもいて、その人は月々15万円ぐらいを日本から送金して貰って、タイ、ミャンマー、マレーシアの瞑想センターを巡り、国際遊行者として悠々自適の比丘ライフをおくっていたりする。
また、前回も書いたが、ある比丘は旧正月の時期を狙ってシンガポールに渡り、御布施をガッポリ貰っては国際遊行者として仏教国各地の瞑想センター巡りをしていた。今どきの比丘たちはそんなかんじだ。決して無所有なんかじゃない。
受蓄金銀戒
実際には坊さんというのは、衣鉢と洗面用具や筆記用具、薬と水筒ぐらいしか所有してはいけない事になっている。お金を貰って蓄えたりしたら戒律違反になる。シュエウーミンの指導者で、現在は遊行中のウ・ジョティカ長老は、衣鉢とペットボトルしか持たない無所有に徹している事でも有名だが、それが本来の坊さんの姿というもの。
ではその衣鉢というものはどういうものなのだろう?ミャンマーではそのへんにいくらでも転がっているものだが、日本人には珍しいものなので、ちょっと見てみたい。
新品の袈裟と鉢
黒塗りの金属製のボールに木製の蓋がかぶせてあるのが、坊さんが托鉢の時にご飯を入れてもらう鉢で、紙箱に入っているのが坊さんが着る袈裟だ。では、この袈裟の着方を見習い僧のピンニャナンダくんに見せてもらおう。
先ずこれが通常時の着方だ。右肩を出している。いわゆる普段着だ。修行をする時や食事をする時など、坊さんの生活しやすいノーマルなスタイルになる。
そしてもうひとつ。坊さんが托鉢へ行ったり、読経で人前に出たりする時の着方、外出着、フォーマルなスタイルのものがある。坊さんは人前では肩を見せてはならないのだ。
衣はシーツみたいな薄手の布が2枚。1枚は腰巻きに、もう1枚を上半身に巻く。しかしピンニャナンダくんの入れ墨は凄い。ミャンマー人は日本人と違って入れ墨を彫るのに全然抵抗がないから、全身入れ墨男が沢山いる。
これが坊さんのフォーマル姿だ。袈裟衣の値段は10ドルぐらいから、高いのになると4、50ドルぐらいになる。お寺には衣も鉢も信者さんたちから寄付されたものが沢山あって、いくらでも貰えるから自分で買う必要はない。
遍歴からの脱却
そういう訳でミャンマーでは、外国人は出家したと言っても、まだまだお金の心配から逃れる事は出来ない。しかし、ひとつだけ逃れられる方法はある。それは瞑想である一定のレベルまで達する事だ。
集中没頭型の瞑想なら対象と一体化(ジャーナ:ワンネス)するか、マインドフルネス瞑想なら気づきに気づく「サティ」という体験をするか、どちらかしかない。そうすれば瞑想センターからスカウトされて本当の出家が許される事になる。そうなったらもう一生何の心配も要らなくなる事だろう。そのためには必死で修行するしかない。