危ない瞑想センター

2020年5月22日金曜日

瞑想センター

t f B! P L

電波塔。テレビやラジオ、スマホなどの電波を中継するための巨大アンテナ。


  目次
1,韓国人に笑われている日本人
2,瞑想中に語りかけてくる存在
3,電波系修行者の誕生
4,あまりにもストレスの多い方法
5,醒めた幻想
6,判明した理由


1,韓国人に笑われている日本人 


 以前シュエウーミンで同室になった韓国人青年に、某瞑想センターの事について尋ねられた事がある。

 「あそこの瞑想センターっていつも日本人でいっぱいなんだって?しかも日本ではあそこのセヤドーの本まで出版されているっていうじゃない?何で日本人はあんな所が好きなんだ?プププププッ」と。その口ぶりからは日本人を嘲笑しているニュアンスが感じられた。「日本人ってバカだね」と。

 韓国人が日本人を侮辱した・・・その筋の人が聞いたらとんでもない事になっていたであろう彼の発言の真意やいかに?

 だが実は、彼にそう言われた私は別に腹も立たなかった。なぜなら私もその瞑想センターに滞在していた時に間近で「目撃」しているからだ。だから私も同様に「何で日本人はあそこが好きなんだろう?」と一緒になって思ってしまった。果たして一体何故なのだろうか?それを考える前にまず私が目撃した事について説明させて頂きたい。



2,瞑想中に語りかけてくる存在 


 マハーシ式の瞑想センターというのは沢山あるものの、どこもギッシリ超満員というのが普通だ。だが、一ヶ所だけいつも閑古鳥が鳴いている所がある。そこが韓国人青年が言っていた瞑想センターだ。

 東日本大震災の2〜3年前、私はヤンゴン郊外の森の中にある、その瞑想センターの支部に滞在していた。そこの宿舎は通常の合宿所スタイルのものではなく、平屋建てのコテージになっていて、それが敷地内に20〜30軒も建てられていただろうか、それを修行者一人につき一軒丸ごと与えるという贅沢なスタイルになっていた。

 私もその時コテージを一軒与えられていたのだが、私のコテージの隣にはもう一人別の日本人がいて、同じ様にコテージを一軒借りて滞在していた。季節は枯葉舞う寒い乾季。毎日毎日、山にようにコテージの回りに積もる枯葉を集めては燃やすのが日課になっていたその頃、彼が突然おかしな事を言い始めたのだ。

 彼はひと月の予定で日本から修行しに来ていたわけだが、ちょうど20日程経った頃だろうか、それまで誰とも話さずにずっと修行に打ち込んでいたのに何故か急に修行を止め、血相を変えて私のコテージまでやって来た。そしておもむろに口を開いて何やら聞いてきたのだ「日本人女性が二人でいつも俺の部屋を覗いてるんですけど、ヒロさん見かけませんでしたか?」と。

 ミャンマーの田舎の村に日本人女性が二人いる?しかも彼女達はいつも隣の彼の部屋を覗いてる?「何じゃそりゃ?」私はその時彼のあまりに突拍子のない話に思わずそんな反応を示してしまった。
 
 しかし彼の方は大真面目で、二人組みの女性達が何時でも何処でも彼の一挙手一投足を覗いていて「ホラ瞑想してる」「ホラ目を閉じた」「ホラ口開いた」「ホラ屁をこいた」などと話しているのだと言う。そして私にも「ホラ聞こえませんか二人の話し声が?」と真顔で尋ねる。だが私にはその声は全く聞こえない。すると彼は「絶対に幻聴ではない」と言い切り、女性達の居場所をアチコチ探し始めた。

 最初は私もわけが判らなかったが、そのうち彼の様子からフト昔の知人の事を思い出した。かつて同じ職場に「いつも誰かが俺の事を盗聴していて、秘密のネタをアチコチで言いふらしてる。テレビや雑誌で言っているのはみんな俺の事だ」と言い出し、そこら中で盗聴器を探し始めて病院送りになった奴がいたからだ。私の胸を嫌な予感がよぎった。

 「恐らく彼には本当に女性達の声が聞こえているのだ、ここは何も言わない方がいい」私は彼の言う事を信じる事にした。

 そのうち彼は「判りましたよヒロさん、あの声の主は霊だったんですよ、だから幾ら探しても姿が見えなかったんだ。女性の霊が二人で俺に憑いていて、いつも色々と教えてくれるんですよ」と言い出した。

 彼によるとその霊達は、これから出会う人がどんな人だとか、寺務職員が国際電話をかけた料金を請求しに来ようとしているとか、事前に全てを教えてくれてとても便利なのだという。「自分から国際電話代持っていったら職員が驚いてました」と喜んでいた。

 そして彼の顔には「本当に可愛い二人なんですよ。もう、この二人が憑いていてくれれば彼女も子供も要らない」と満面の笑みが浮かんでいるではないか。彼が言うにはそれは「良い霊」なのだそうだ。良い霊って何だ?守護霊とかそんな霊か?何だかよく判らない。しかしまあ、そういう事なら心配は要らない・・・のだろうか?


3,電波系修行者の誕生 


 だが、異変が起こったのはそれから2〜3日後の事だった。彼は突然、憑依現象のようにトランス状態に入り、全く焦点の合っていない目をしたままフラフラと瞑想センター内を彷徨い始め、仏像の前に土下座して何時間も懺悔してみたり、大木に向かって何度も五体投地してみたり、村の方から聞こえてくる音楽に合わせて「ハア〜ハハハハア〜、ラ〜ララララ〜」と声楽家のように腹から出す声で気持ち良さそうに歌ってみたり、奇行に走り出したのだ。

 唖然とする他の修行者達や職員達を尻目に次々と奇行を繰り返す彼に、瞑想センター側は対応に困ってしまった。そしてとうとう日本大使館に電話をした。狂った奴が出たから日本に連れて帰ってくれという事になったのだ。こうなったらもう指導者達の手には負えない。

 「何だ?ちっとも良い霊じゃないじゃないか・・・どうなっているんだ一体?」私はもう何が何だかサッパリ判らなくなった。これじゃまるで狐とか狸に憑かれてバカにされているようではないか。「もしかしたら動物霊か?」いや、もうそういう問題ではない。これはやはり「盗聴」などと同列に考えるべき事だったのだ。

 そしたら直ぐに大使館員達がヤンゴン郊外の森林まで駆けつけてきて彼を取り押さえた。一時的に正気に戻った彼。そして大使館員に説得され、ちょうど滞在期限も切れたという事で半ば強制的に帰国させられる事となった。その一部始終を見ていて、大事に至る事なく済んでホッと胸を撫で降ろした。一時は二度と正気に戻る事なく、何処かの病院に収容されてしまうのではないかと思ったからだ。

 帰り際に彼にその声に主について質問してみた。「その声は電波みたいな感じで聞こえてくるのですか?」と。すると彼は「そうです、よくわかりますね。この声は音を聞いて
いるのではなかったのです。これは脳に直接響いています。つまり誰かが脳に電波を送ってきているのです。だから他の人には聞こえなかったわけです」と答えた。

 「やっぱり・・・」私はその時、かつて「電波系ライター」と呼ばれていた、故村崎百郎氏の著書の事を思い出していた。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/村崎百郎

 村崎氏はその中で「電波」の手口について「最初にいい思いをさせておいてからドンと落とすのが奴らのやり方」と言っていた。まさしくこれと同様の言い伝えがミャンマーにもあり、「瞑想中に語りかけてくる存在は相手にするな。奴らは最初いい思いをさせておいて信用させてからドン底に突き落とす」と警告する。

 彼はそれらの忠告を知らず、思いっきり電波の手口に引っ掛かってしまったのだ。


4,あまりにもストレスの多い方法 


 これは私が直接見た例だが、その瞑想センターではそれより10年前の1990年代後半にも、やはり日本人で同じ様に電波を受信し、錯乱した人がいるという。

 また、そればかりではない、その瞑想センターでは2013年初頭にも「事件」が発生している。心を病んだ日本人男性が訪れて出家を懇願したものの断られて落胆し、深夜の2時頃に宿舎に荷物も所持金もパスポートも全て残したまま忽然と姿を消してしまったのだ。その後、警察によって大捜索が行われたものの彼の消息は全く不明で、生きているのか?死んでしまったのか?何の手掛かりもないまま迷宮入りになってしまった。

 実は私はその彼、S氏というのだが、それより9年前にそこで4か月間一緒に修行した事がある。S氏はスノーボードのテクニックがプロ級で、アメリカに渡るために寿司職人になったという人だった。英語も達者で、シーズンオフにはフルコンタクト空手もやったりする、何処から見てもハツラツとしたスポーツマンで、とてもではないがそんな事になるなどとは想像もつかなかった。それが何故そうなってしまったのか?


S氏についての詳しい記事がこちら
 
 だから、つまりそこが韓国人青年の言わんとする所なわけだ。「あそこのやり方はヤバいよ」と。韓国人でもおかしくなった人がいるのだろうか?その瞑想センターの事を「ヤバい」扱いしている韓国人には他の所でも会った事がある。

 また、私が2000年代初頭にその瞑想センターを訪れた時には、韓国人がいつでも10人ぐらいは修行していたものだが、今は韓国人達からはすっかり敬遠されるようになってしまった。やっぱり何らかのトラブルがあったとしか思えない。

 そればかりか、その瞑想センターとは別のマハーシ式のセンターで名前がよく似た所があるのだが、そこもとばっちりを喰らって、やはり韓国人達からはすっかり敬遠されてしまっている。全然関係ないにもかかわらずだ。そこまでして避けるからには、よっぽど重大な事があったに違いない。だが、それがどういう事なのかは判らない。

 確かにその瞑想センターの方法は極度にゆっくり動くだけでなく、ラベリングも異常なまでに多い。他のマハーシ式のセンターと比べて2〜3倍の数になる。それだけでも凄いストレスがかかる。

 また、通常マハーシ式のセンターでは1回の座る瞑想の時間を1時間までと定めてある。それ以上やると疲れて後が続かなくなるので、時間を厳守するように言われる。しかしそこで私がやっていた時は3時間座っていた。当然疲労でエネルギーが枯渇していたのだが、そんな素振りを見せようものなら直ぐに指導者からどやしつけられたので、ヘトヘトになりながらやるしかなかった。そんな事で集中力を磨く事もできなければ、何事に気づく事もできず、ただ虚しく時間だけが過ぎて行っていた。


5,醒めた幻想 


 その瞑想センターで私と一緒に修行し、後にシュエウーミンに移ったあるスイス人は「あそこにいた時は俺もおかしくなりそうだった。日本人でおかしくなった奴が出たのは無理もない事だ」と言っていたし、また同じくそこからシュエウーミンに移ってきたあるカナダ人女性も「あそこにいた時は足の痛みばかり観てて頭がおかしくなりそうだった。こっちに移ってきて本当に良かった」と言っていた。

 私もそうだ、ハッキリ言えばそのスイス人やカナダ人女性と同じ事を思っている。だから韓国人青年と全く同じように、どうして日本人はあそこを好むのか良く判らない。所謂電波を受信する人があんなに多発する所なんて他にはないからだ。

 あの当時、あそこで修行していた外人修行者達は、みんなある種の幻想を抱えていた。それはそのセンターの管長が世界中にマハーシ式のヴィパッサナー瞑想を普及してきた人だったからだ。だからこの方法がミャンマーで一番良いように信じ込んで疑わなかったのだ。だから心の何処かで無茶苦茶な方法だと思いながらも、無理して続けていた。だが、そのうち心を病む者が続出するのを見て、みんな幻想から醒めて行った。

 そして、マハーシ式というのは数ある方法の中で優れているから世界に広まったのではなく、当時のビルマ政府に気に入られていたからビルマ仏教を代表して世界に紹介されたに過ぎないという事。また、そこの管長についても、優れた指導者だから海外に派遣されたのではなく、単に英語が達者だったからマハーシセヤドーの通訳として一緒に世界を回ったに過ぎない事なども外人修行者達の知る所となった。

 しかもマハーシ式の指導者達の本を読んでも100ページのうち80ページぐらいは「全ての心身の現象は生滅している。足の痛みもちゃんと観察するように、ポウライ・ピャウライ、ポウライ・ピャウライ・・・」とマントラのように決まり文句を繰り返しているだけだし、彼らの多くは経典の中にある、千人斬りの殺人鬼アングリマーラーの話や宇宙空間を歩くローヒタッサ梵天の話などを実話だと考えているフシがあって、どうも先進国の人々がついていけるような感覚の持ち主ではない。ただ、UFOに乗って宇宙に行ったような話などは個人的には大好きなのだが。

 そういう事もあって、かつては外人修行者を多く集めたその瞑想センターも、やがてすっかり評判を落としてしまったのだ。

 ちょうど東日本大震災があった頃、マハーシ式で一番外人に人気のあるパンディタラマ・シュエタンゴン瞑想センターでは、ヤンゴンの隣のバゴー市にある森林瞑想センターで、外人だけを100人以上集めて盛大に2か月間のスペシャル・リトリートを開催していた。同時にヤンゴンの本山にも短期リトリートのための外人修行者達が数十人集まっていた。

 そんな時にその瞑想センターを訪れたら、郊外の支部を合わせても、外人は2〜3人しかいなかった。こういう状況まで落ち込んだ姿を見たら「ここはもう、潰れるのも時間の問題だな」と思うしかなかった。


6,判明した理由 


 そんなある日、スマホでミャンマーの瞑想センターの事を調べようと「ミャンマー 瞑想センター」で検索する機会があった。そこで初めて判ったのだが、何とそこで出て来たのはその瞑想センターの名前だった。何と言う事か、そこのセンターばかりがズラリと10か20ぐらい連続して出て来たのだ。

 「あっ!判った!これだ!」なるほど、日本人がその瞑想センターばかりを選ぶわけだ。ミャンマーの瞑想センターについて調べようとすれば、そこばかり出てくるわけだから。確かにこれではミャンマーには他に瞑想センターがないみたいだ。

 だが、試しにちょっと誰かのブログで現在の様子を見てみると、時間割表なんかがあったりして、昔のやり方とはどうも違う。昔は誰もが超スローペースで動いていたため、時間割なんか守れなかったし、座る時間も長かったのでそんなものは成り立たなかったのだ。それに韓国人も少し戻っている。明らかに変わっている。一体何があったのか?

 何の事はない。もう私が最初に行った2002年頃に教えていた指導者達はすっかり高齢になってしまって、指導からは退いてしまっていたのだ。教えているのは若い世代の指導者達。外人の生活習慣の事も良く知っている人達だ。なるほど、この人達なら外人向けの指導も出来るはず。

 しかもミャンマーに到着した外人を空港まで迎えに行くサービスまでし始めたようだ。これではよっぽど修行者に逃げられたくないみたいではないか。こんな事昔はやってなかったし、今でも瞑想センターは数あれど、ここでしかやってない事だ。確かに変わってる。もう誰も来なくなって、こんな事までするようになってしまったわけだ。そして年末には中国人や東南アジアの華僑達を集めてのメッターリトリートと。どうでもいいが、この企画は他の所のパクりなんですけど。

 まあ、そんな感じでその瞑想センターも今ではなんとか態勢を取り直して持ちこたえているようだ。一応盛況なのではないだろうか?相当の危機感があった事が覗える変貌ぶりだ。

 だが、そこで修行して潰されていった修行者達はもう戻っては来ない。確かに彼らは糞真面目で根を詰めてやるタイプだった。しかしそれが原因だとしたらあまりにも理不尽な話だ。

 ある人のブログで、そのマインドフルネス瞑想センターの宿舎が新しく建て直されているのを見かけた。その時フト「あの建物は潰されていった多くの修行者達が人柱となって支えている」そんな思いが脳裏をかすめた。



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  最終更新日 2023.12.31

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