【修行者列伝〈ミャンマーで出逢った修行者たち〉#04】自分の首を締める修行者 

2020年9月5日土曜日

修行者列伝

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このシリーズでは、各地の瞑想センターで実際に出会った特筆すべき修行者たちを紹介しています。一人一人の修行者から学ばせていただいたことも多くあり、敬意をもってここに綴らせていただきます。




I氏 ハンガリー人 50代 男性


 I氏がミャンマーに初上陸したのは2004年8月。その時はC瞑想センターに滞在した。ドイツの大学で言語学を研究していたI氏は、母国語のハンガリー語は勿論、ドイツ語もほとんどネイティブだし、英語もネイティブ並みに話す。中国語は漢字まで読めるし、私と話す時は何と、流暢な日本語になる。発音はいいし、文法は正確だし、文句のつけようがない。

 しかし、何と言っても彼の専門分野は北欧の言葉で、ネイティブ並みのアイスランド語を始めとして、フィンランドスウェーデンノルウェーデンマーク、更にグリーンランド語も研究対象だったと言うし、イギリスの北にある、人口3000人程の島の言葉まで話すと言うから感心せざるを得ない。





 また更に、仏教に興味を持つようになってから、タイ語ミャンマー語パーリ語を、毎日同時に勉強していると言うから、全部で何か国語出来る事になるのか?

 まったく、こんなとんでもない人は初めて見た。彼の頭の中は一体どうなっているのか?



 だがこのI氏、肝心の瞑想の方となるとちょっと苦手なようで、中々修行が続かない。

 少しやってはドイツ人修行者とドイツ語で話し、また少しやっては中国人修行者と中国語で話しては、自分の語学力を楽しんでいる。

 当然そんな態度では指導者に怒られる事になるのだが、更にまた驚いた事に、何とI氏はその時指導者に向かって逆ギレして、瞑想センターから飛び出してしまったのであった。



写真はイメージです



 てっきり言葉を覚えるなどという根気のいる作業を、コツコツやっているからかなり気長な人だとばかり思っていたのだが、実はとんでもない誤解で、かなり短気で喧嘩っ早い人でもあったのだ。

 まったくとんでもないづくしのこんな人間初めて見た。

 そしてこんな短気なんじゃ瞑想なんか出来ないだろうと思っていたら、本人はちっとも懲りずにそれから何度でもミャンマーに現れる事になるのだった。


 

 次にI氏と会ったのは2010年11月。場所はP瞑想センター。Cセンターであんな事があってから6年。だがI氏はやる気だけは満々で、現在は大学を退職し、タイで仏教書の翻訳の仕事をしていると言った。

 そして今度は前回のようにならないように、出来るだけ長く滞在する事を望んでいた。何やら荷物も多い。どうやら本気で長期でガッチリ修行するつもりらしい。頭も丸めた。6年前の反省の弁も述べ、修行態度にも成長が見える。
 
 「こりゃマジだ!ようし!」そこまでやる気だったらこっちも見る目を変えよう、そう思った。

だがその時だった。

またしても彼は些細な事で指導者にキレて瞑想センターを飛び出したのだ。その間わずか1週間。「まったく・・無理だねー彼には・・・」あまりの呆気なさにそう思わざるを得なかった。






 
 「オー!信じられない」それから2年3か月たった2013年2月、今度は場所はS瞑想センター。頭上から何やらそんな日本語が聞こえると思ったら、何とまたI氏が瞑想ホールの2階から、3か月間のリトリートにやって来た私の事を覗き込んで何やらはしゃいでいるではないか。
 
 その後も彼はアチコチに出没していたようで「あちらではイビキをかくオランダ人をどやしつけていた」とか「こちらではインドネシアの若い者と喧嘩して殴られていた」とか、彼にまつわる様々な武勇伝は、会わない間にも “修行者ネットワーク”の噂で耳にしていた。そしてSセンターでは案の定、他の修行者たちから敬遠されていた。





 
「彼らだけでクラブを作りますね」


  結束の堅い白人修行者たちにさえハジかれ、ふて腐れるI氏。そんな孤独な彼だから、私がSセンターに来た事がよっぽど嬉しかったらしく、コーヒーとカステラを勧めてもてなしてくれる。毎日一緒に食後のコーヒーをすする仲間が欲しかったのだと言う。
 
 そんな事を言われてもI氏の性格を知っている私は、あまり乗り気になれない。「いいっす、いいっす」と何気に断ったら今度は「食後のコーヒーも飲まないんですか?」と怒りだした。しかも呆れる程流暢な日本語で。

 
 「まったく、コイツはこういう性格なら言葉なんか覚えない方がいいな」


 つくづくそう思った。

 普通は言葉を覚えれば覚えるほど、世界中に友達が出来て楽しいものだが、皮肉にも彼の場合は、覚える分だけ敵が増えて苦しくなってしまう。自分で自分の首を締めているも同然。性格の悪さが災いして、語学力が仇になってしまうのだ。こんな事なら最初から勉強しない方がマシだ。


ビルマ語アルファベット

 
 だがI氏は自分ではその事にちっとも気がつかないらしく、ヒマさえあればミャンマー語の勉強に余念がない。そんなI氏を見ていると「ミャンマー語をしっかりマスターした時がミャンマーにいられなくなる時だな」私はそんな気がして仕方なかった。


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  最終更新日 2023.12.31

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