【修行者列伝〈ミャンマーで出逢った修行者たち〉#58】天国に旅立った修行者

2024年7月19日金曜日

修行者列伝

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Kさん トルコ人 30代 女性


カッパドキアでのKさん


ロシア系トルコ人のKさんが、トルコの首都アンカラからミャンマーのS瞑想センターまでやってきたのが2010年の暮れ。奇しくも私が初めてSセンターを訪れた時と同時期だった。


ロシアでのKさん


Kさんを一言で言えば「目立つ人」になる。なぜかと言えば長身で、大体平均的なアジア人女性よりも頭一つ分高いからだ。180センチぐらいだろうか?ロシアでは普通かもしれないが、アジア人の中にあっては人目を引くような大きさで、何やら白人との違いを見せつけられているような気分になる。


「私が大きいって?そうよ、私の身体は超巨大よ、だって私の身体って宇宙全体なんだから!アッハッハ」


そしてKさんはいつもアジア人たちにサイズの事を言われるたびに、そう言って高らかに笑ってみせた。


宇宙全体?


仏教を知らない人が聞いたら変な話に聞こえるかもしれない。だが別にKさんはおかしな事を言っているのではない。彼女はつまり人間の身体というものは、様々な条件が集まって初めて存在できるものであって、それそのものだけでは存在する事はできないと言っているのだ。


確かにこの身体が存在するためには、身体以外に水や空気、適度な温度や食糧が必要だ。また、それらの水や空気や食糧を得るためには植物がなければならないし、植物の養分となるものは生物から排出されるから・・・という事はこの身体が存在するためには生態系全体が必要だという事になる。そして地球に生態系が存在するためには、太陽やら他の惑星やらがあって、それらと重力のバランスをとっていなければならないし、太陽系がそうあるためには銀河系も・・・と、何処までも相互依存の連鎖は繋がり・・・・


「結局この宇宙って全部繋がってるのよ。みんな相互に依存し合ってる訳。独立して存在するものなんてない。つまり宇宙全体がワンセットになってるの。この身体だけを周囲から切り離す事は不可能なのよ。言い方を変えれば存在するものはみんな同じものの部分部分だから、個というものは成り立たないという事になる。だから私の身体っていうのは宇宙全体という事になるの」


何やらチベット仏教で言う「空」の理論みたいだが、Kさんはこの話が大のお気に入りだった。欧米でマインドフルネス瞑想が流行ったのでやってみたら楽しくて、仏教に興味が出てきて、試しに仏教書を読んだら難しい仏教用語があって、検索して調べたらこの話が出てきたのだという。まさに条件が重なって知る事となった理論だ。そしてこれにすっかり感動して、今や仏教と瞑想の虜になってしまったそうだ。自宅には専用の瞑想ルームまであるという。


自宅近くのKさん


「この話を知った時は凄いショックだった。だってこういう事っていつも見て判ってるはずの当たり前の事じゃない。でも誰も気がつかない。私は今まで世の中の何処を見て過ごしてきたのかと恥ずかしくなった。だから何も気づかずに生きているのって、本当に恐ろしい事だと思った」


これと同じような話はミャンマーの仏教にもある。こちらではこれをルーパーと言う。ナーマーとルーパーのルーパーだ。ナーマーとは心で、ルーパーとは身体だ。ルーパーを物質の四大要素と言う場合もあるが、意味は同じ。この身体は永遠に循環を続ける四大要素が組み合わさってできた全体の一部なのであって、他の物から切り離す事ができない物なのだから。


つまり仏教で身体と言う時は、この身体の事だけを言うのではなく、宇宙全体を指している事になる。


しかし私たちはこの身体だけを自分と思い込み、周囲の物から切り離して「自己」なる妄想を創り上げ、苦しんでいる。だから身体への執着を捨てて正常な状態に戻るために、仏教では死体を見たり、身体内部をイメージしたりする訳だ。今の時代のマインドフルネス瞑想ではあまりそういう事はしないが、この身体を自分だと思うのは止めて、自然の一部と見なすように説く。


そんな風にKさんは、気づきの大切さをつくづく実感し、生活に気づきを取り入れるようになった。そして日々の気づきによって、生活が充実するようになったという。


心も大きいKさん


ロシア正教会を訪れるKさん


Kさんは現在はトルコ在住だが、ロシア出身のキリスト教徒で、99パーセントがイスラム教徒の国においては少数派に属する。しかしトルコはイスラム教国と言っても他の国に比べてユルユルで、ちっとも厳格ではないのだという。中東のイスラム教徒と言うと、大体女性は頭から足先までズッポリと布を被っている姿を想像するが、そういう女性はあまりいないという事だった。


そんな感じなので、トルコではヨガや瞑想が人気があり、瞑想センターもたくさんあるらしい。仏教ではチベット寺もあるし、ゴエンカ式の瞑想センターもあるとの事。イスラム教徒たちも仏教を学んでいるのだという。


「宗教は関係ない!大切なのは精神性よ!」


だからKさんは、その人の宗教が何であれ、全然気にしない。また、それだけ仏教にハマっていても、自分の事をキリスト教徒だと言ってはばからない。


「変かしら?じゃあ、あなたは長い事ミャンマーに住んでいるそうだけど、自分の事をミャンマー人だと思う?」


いや、全然思わない。帰属意識は日本の方にある。


「そうでしょう。それと同じ。私もトルコ国籍で仏教マニアだけど、ロシアのキリスト教徒なの」


教会の中にはイコンと呼ばれる聖画像が


なるほど。つまりKさんは、今はすっかり仏教に夢中になっているけれど、育ったのはキリスト教文化の中だし、キリスト教から学んで得たものは多く、キリスト教的なアイデンティティを培っているという意味で、自らをキリスト教徒と言っている訳か。


だからKさんは、自身のそのような事情からも、どのような宗教の人であれ、決して偏狭にならずに尊重するという姿勢を崩さない。身体だけでなく、心の方も広く大きな人なのであった。


「仏教は宗教じゃないの。2500年かけて築き上げられた瞑想システムよ。だからどんな宗教の人でもできるの。平和を望んでいる人たちはみんなやる」


そして瞑想をすると有益な結果が発生する。科学がそれを証明した。


Kさんは瞑想について聞かれると、必ずそのように答えると言っていた。


Kさんの師匠


中東でユダヤ教徒やイスラム教徒にヴィパッサナー瞑想を教えるジェフ・オリバー師


そしてKさんがトルコに居る時に瞑想を習っていたのが、ジェフ・オリバー師という、オーストラリア人なのだという。この師はマハーシ式ヴィパッサナー瞑想の在家指導者で、2006年からトルコを訪れ、アンカラやイスタンブールなどの都市でリトリートを開催し、瞑想の普及に努めている人だ。



私はこのジェフ・オリバー師の話を聞いた時、あるオーストラリア人比丘の事を思い出した。実は私は2002年にミャンマーに渡り、マハーシ式のC瞑想センターという所に行ったのだが、そこの南アフリカ支部にウ・ダンマラッキタ比丘というオーストラリア人指導者がいたのだ。私は一度も会った事はないが、噂は何度も聞いていた。


と、いうのもこの比丘は、人気抜群で日本に呼ばれてリトリートの指導に行った経験もあり、彼に指導して貰いたいという日本人が何人もCセンターを訪れていたからだ。中には彼のいる南アフリカまで追いかけて行った人もいたほどだった。


しかし同時にまた悪い評判も聞いた。ミャンマー在住のある日本人男性は、以前Cセンターを訪れてそのオーストラリア人比丘の指導を受けた時、あまりにも口やかましいので嫌になって直ぐ帰ったと言っていた。また、やはり以前オーストラリア人比丘の指導を受けたというカナダ人男性も、あまりに多すぎるラベリングに嫌気がさして去ったと言っていた。


だからそのオーストラリア人比丘は、好かれた分だけ、同時に嫌われていた訳だ。そのため私はその比丘は一体どういう人なのか気になり、一度会ってみたいと思っていた。だが私のその願いは叶う事はなかった。なぜならその比丘は、それから数か月後にC瞑想センターを辞め、還俗して帰国してしまったからだ。


その比丘とジェフ・オリバー師とが同一人物なのかどうかは定かではない。Kさんもその事はよく判らないが、ジェフ・オリバー師はかつては比丘だったとは言っていた。他宗教の人々が瞑想を受け入れやすくするために還俗したのだという。彼女はそんなジェフ・オリバー師にぞっこんだった。


その時、オーストラリアから修行に来ていた女性がいたので、彼女にジェフ・オリバー師について聞いてみた。すると彼女は


「ジェフ・オリバー?知ってる!私あの人のリトリートに出てマハーシ式が嫌いになったの!私あの人が悟ってるとは思えない!」


と、嫌悪感ムキ出しで言った。


おお、好き嫌いでまっぷたつに分かれた!!


それで私はジェフ・オリバー師は、かつてのウ・ダンマラッキタ比丘であると確信する事ができた。しかし本当にどういう人なのだろう、このジェフ・オリバー師とは?


トルコのホテルの庭で瞑想する修行者たち


ジェフ・オリバー師は瞑想センターを持たず、修行者たちから呼ばれた所に出かけてリトリートを開催する、出張専門の瞑想指導者だ。だからリトリートの開催は、ホテルやゲストハウス、キャンプ場、空き家など、宿泊して瞑想できる場所があれば、どんな所でも利用する。


ホテルの大部屋で瞑想する修行者たち


カフェテラスでのお茶もマインドフルに


この方法でオーストラリアを始め、タイ、マレーシア、南アフリカ、アラブ首長国連邦、イスラエル、トルコなどで定期的にリトリートを開催している。比丘ではないので、他宗教の人々が参加しても精神的負担が少なくて済むし、堅苦しい作法や儀式抜きで指導して貰える。


マレーシアのペナン島


Kさんはトルコではジェフ・オリバー師のリトリートの常連だったが、瞑想への興味が膨らんで長期間の修行に入りたくなり、ミャンマー行きを決意した。そしてミャンマーに行く前に、まずマレーシアに行き、ペナン島で行われたジェフ・オリバー師のリトリートに参加し、士気を高めたという。


だが、ペナン島というのは中国系のいわゆる華人の多い場所でもある。そのためそれまでジェフ・オリバー師に習って、順調に伸びてきた彼女の修行は、それから思いもよらぬ方向へ転換する事になる。


2つの矛盾する教え


ペナン島のMalaysia Buddhist Meditation Center

【MBMC についてはこちらからどうぞ】


Kさんが参加したペナン島でのジェフ・オリバー師のリトリートは、ジェルトンという地区にある、MBMC(Malaysia Buddhist Meditation Center)という瞑想センターを借りて開催されたものだった。


そのリトリートに参加した時、Kさんはまだミャンマーに行ったらどこの瞑想センターに滞在するか決めていなかった。そこでリトリートに参加したメンバーにお勧めのセンターを聞いたところ、みんな口々にS瞑想センターと言ったという。


このS瞑想センターはジェフ・オリバー師が指導するマハーシ式ヴィパッサナーの瞑想センターではなく、SUTことウ・テジャニヤ長老が指導するシュエウーミン式の瞑想センターだ。なぜペナン島の人々がKさんにマハーシ式の所ではなく、そこを勧めたかと言うと、彼らは同じ華人のSUTびいきだったからだ。決して彼女の事を考えて勧めた訳ではない。彼女がマハーシ式の修行者と知りながら、敢えて同胞のSUTの元でやるように仕向けたのだ。これは確信犯と言っていいだろう。


しかしそんな事など知らないKさんは、勧められるがままにミャンマーのS瞑想センターを訪れ、大変な目に遭う事になる。


ヤンゴンにあるS瞑想センター


なぜならKさんは、単純にミャンマーの瞑想センターに行ったら、ジェフ・オリバー師から教わった方法で修行すればいいと思っていたからだ。ミャンマー人はみんなその方法で修行しているぐらいに思っていたのだ。だが実際に瞑想センターに着いて修行を始めてみると、ペナン島の人々から勧められたSUTは、師とは全然違う事を言うではないか。


「ラベリングの有無は勿論の事、雑念の扱い方からして違うんだから参っちゃった。ジェフは雑念が出たらラベリングして直ぐ消せって言ったけど、SUTはちゃんと観察してエネルギーを発散させてやらないと、また何度でも出てくるって言うでしょう」


SUTの面接指導の様子


「それにジェフのリトリートでは、歩く瞑想の時も食事の瞑想の時も、掃除から洗濯から、日常生活のありとあらゆる動作を、ゆっくりとラベリングしながらやるけど、SUTは全ての動作を自然の速さで、ただ気づきながらやれって言うし、もう何もかもがジェフのリトリートで教わったのと違った。教わってきた事を全部捨てて、一からやり直さなければならなかった」


「一番違うのは足の痛みへの対処の仕方。ジェフは足の痛みは天国への扉と言って、痛みが生滅する様子を何処までも細かく観察するように教えていた。細かい粒子が瞬間瞬間生滅する様子を観察できるように、日頃から一挙手一投足にラベリングして集中力をつけておくべきだと、何事にも細かいラベリングを課していた。一方のSUTは、足が痛ければ足を組み替えるように言う。不快なまま座らず、快適な状態で座れと。こんなに違っていたら私はもうどうしたらいいか判らない」


そうなったらKさんは、ただうろたえるしかなかった。とにかくミャンマーの瞑想センター事情に関しては、自慢じゃないけど何も知らない。自分が教わっていたのがマハーシ式で、今居るのがシュエウーミン式の瞑想センターである事すら判っていない。ついでに言えば、自分が今滞在している瞑想センターから歩いて7〜8分のところに、ジェフ・オリバー師の師匠である、ウ・インダカ長老のいるCM瞑想センターがあるなどという事は、夢にも思っていなかったのだ。


【CM瞑想センターの案内はこちらから】


「だからもう、SUTの言う通りにやるしかないと思って、とにかく指導に従ったの。雑念は消さずに観察するようにした。でも最初にそれをやった時は直ぐ雑念に巻き込まれて、全然瞑想にならなかった。消した方が手っ取り早いのに、何でこんな面倒な事をしなくちゃならないのかと思った」


全く華人たちときたら罪な事を。彼らの同胞愛のせいでKさんはパニック状態だ。やはりあの場合はSUTではなく、彼女のやってきたマハーシ式の瞑想センターを教えてやるべきだった。連中はこんなに彼女を苦しめて何が面白いのか。


「そのうちSUTに、雑念や思考に巻き込まれそうになったら、その背後にある感情を観るよう指導されたの。だから雑念が出るたび感情とか気持ちの方を観てた。そしたら面白い事が判ってきて」


おおっ!Kさんは最初は雑念を観察する事に乗り気ではなかったが、それでもやってるうちにある事に気づいてしまったようだ!


「機嫌が悪い時は頭にくる事ばかり思い出すし、考える事も怒りを爆発させるような思考になるの。また、悲しい時は悲しかった事ばかり思い出すし、悲観的な思考になりがちなの。つまり、感情も雑念も思考も、根は同じエネルギーなのよ。雑念は感情を記憶で表現したものだし、思考は感情を概念化して言葉で表現したものだと思う」


それで、雑念が出るたびに感情や気分の方を観るようにしていたら、全然雑念にも思考にも巻き込まれなくなったの!そしたら瞑想が面白くなっちゃって、SUTのやり方の方が断然好きになっちゃったの!


何と!KさんはSUTの指導に従った事でその効果に驚き、マハーシ式よりシュエウーミン式の方が好きになったという。凄い!これは逆境を乗り越えての智慧だ!


「歩く瞑想もこっちの方がいい。ジェフのはゆっくり歩いてずっと足に集中して集中を切らさないようにする方法だったけど、こっちのは普通の速さで歩いて足が重くなったり軽くなったり、硬くなったり軟らかくなったりする感覚の変化や、不機嫌な時のステップや嬉しい時のステップを観て、動きと感情の関係を探求したりするでしょう。気づく事がたくさんあって面白いの。私ってこんな事してたのかって自分で驚いてる」


そうだ。ジェフ・オリバー師が教える方法は、徹底的に集中力を磨いて、足の痛みを何処までも細かく観ていき、感覚の微細な粒々が水の泡のように次々と生じては滅する様子を観察し、一気に万物の根源にたどり着こうとする方法だ。それに対してSUTのは、心身に起こる現象にコツコツと気づく事で智慧を開発し、悟りに至ろうとする方法だ。同じヴィパッサナーでもずいぶん違う。するとKさんは後者が合っているというのか?


「あとは日常生活の瞑想もこっちの方がずっといい!ラベリングがないから普通の速さで動いてずっと気づいていられる!」


そんな感じで彼女はSUTの指導にすっかりハマり、それまでジェフ・オリバー師から教わった方法を忘れ、いつしか誰から見ても完全にシュエウーミン・スタイルの修行者になっていた。わざとゆっくり動く必要もなければラベリングする必要もない。いつでもどこでも自然な動きでありのままの心身の状態を観察する、自然体の修行者になったのだ。


S瞑想センターの尼さんたち。この中にSUTのお姉さんがいる!絶対直ぐ判る😁


「私が本来求めていたのはSUTの方ね。私は瞑想で自身の思考や行動パターンに気づいて、ストレスから身を守りたかったから。ジェフのやり方では、とにかく一挙手一投足に集中するばかりで、気づく余裕はなかった。だって、常に凄く多いラベリングを課されてたんだから」


そして何という事か!華人たちのツマラン策略によってS瞑想センターで修行するように仕向けられたKさんであったが、それによって求めていたものを手に入れてしまったではないか!


しかし、だからと言ってペナンの連中のやった事が正当化される訳ではない。これはたまたまKさんがいい方に転んだから良かったようなもので、一歩間違えていたら大変な事になっていた。だから連中のやった事は非難されるべきなのだ。二度とこういう事はすべきではないと、ハッキリ言っておかなければならない。まったくペナンの奴らときたら、とんでもない奴らだ💢


ジェフ・オリバー師の全容解明


マハーシ式ヴィパッサナー瞑想の総本山M瞑想センター正門


「ジェフが教える方法はラベリングが多すぎて日常生活では使えなかった。だって一歩歩くのにも10ポイントもラベリングするのよ。食事のときもスプーンを手にするまでに『手を伸ばす』『回す』『下げる』『触れる』『指を広げる』『掴む』『持ち上げる』ってやらなきゃならないし、食べる時も『口を開く』『スプーンを入れる』『御飯が舌に触れる』『口を閉じる』『スプーンを抜く』『噛む』『味わう』って細かくやらなきゃならなかった。食べるのに1時間もかかってたもん。みんな『こんなのできない』って悲鳴上げたりしてね。実践的ではなかったの。リトリートでしか使えない方法よ」


KさんはS瞑想センターに来たお陰で、本当にいい事をおぼえたと嬉しそうにしていた。この方法なら日常生活で気づきを維持できると言って。しかしジェフ・オリバー師とは、そんなに細かい部分までラベリングさせる人だったのか?それじゃあ確かに大変だ。嫌われる理由が判ったような気がする。


「誤解しないで。ジェフは心の広い、素敵な人よ。私がここででジェフから教わった方法と違う事をやっても、全然気を悪くするどころか、尊重すらするような人なの。細かい事は気にしないから、こちらも気を遣う必要はないし、とにかく常人離れした魅力的な人なんだから」


細かい部分までやかましくても、細かい事は気にしない。Kさんは瞑想の方法は変えても、そんなジェフ・オリバー師の信奉者である事に変わりはないようだ。リトリートにも参加し続けると言っている。それを聞くとジェフ師は本当に人望が厚い人だと思う。確かに中東での活動を見れば、寛容で柔軟な人である事は間違いない。好き嫌いに分かれるのはそういう事情があった訳だ。


なるほど!これでジェフ・オリバー師についての全容が解明した!


と、いう事はKさんは、日頃は自宅でシュエウーミン式のラベリングのないマインドフルネス瞑想で常に気づいているようにして、年に数回はジェフ・オリバー師のリトリートに出て、集中力を使って禅定を目指す瞑想をするという事になる。


そう言えば私が知っているペナンの連中は、この方法を使っている奴が多いな。普段はただ気づくだけのマインドフルネス瞑想をやって、リトリートはマハーシ式のに出たり、アーナーパーナ・サティのに出たりして禅定を目指している。という事は連中は、Kさんにそのように瞑想法を上手く組み合わせて使えばいいという意味で、あのようなアドバイスをしたのだろうか?


それはペナンの連中に聞いてみなければ判らない。だが、それならそれで一言付け加えるべきだった。しかし、ヴィパッサナーにも色んな方法があって本当にややこしい。そしてマハーシ式は、このように指導者によってラベリングが多かったり少なかったりと、方法が違っているから教わる方は混乱を免れる事ができない。もう無茶苦茶だ。


そんな感じで、最初のうちはやり方の違いに戸惑って右往左往してしまったKさんであったが、そのようにしてSUTの指導に見事に適合し、そのままS瞑想センターで修行を続ける事ができた。そしてその大らかな性格故に友人もたくさんできて、楽しく充実した日々を過ごす事となった。


だが、そのような状態でいる時は、時間が経つのも早いもので、気がつけばKさんは、S瞑想センターに来てから既に11か月も経過していたのであった。


天国へ旅立ったKさん


旅立つKさん


Kさんが長期間の修行を終え、S瞑想センターから去ろうとしていたのが2011年の11月。門の前でタクシーを待っている彼女のところには、別れを惜しむ修行者たちが集まって来た。


これからどうするの?まっすぐ自宅に帰るの?


みんな口々にKさんに聞いた。すると彼女はこれからマレーシアに向かうと答えた。


「私はここに来る前に、ペナン島のMBMCという瞑想センターで、ジェフの10日間リトリートに出てたの。ペナンはビーチが綺麗でとても素敵だった。まるで天国みたいよ。でも修行に入る前だから泳ぐのは控えておいたの」


ペナン島


Kさんは帰国する前に、またペナン島に寄って行くつもりなのだという。1年近くも瞑想し続けたので、身体が鈍っているから、少し泳いでいきたいのだそうだ。それはMBMC にいた時から計画していたらしい。


ペナン島のビーチ


「あんな綺麗なビーチ見たの初めてよ!修行が終わったら絶対に泳ぎに行きたいってずっと思ってた。そして今、念願だった夢が叶うのよ!私はこれから天国に行くの!」


天国に行くとは恐ろしい事を言うものだ。日本ではそれは違う意味になるのだが、Kさんの方じゃそんな事を言って大丈夫なのか?


「向こうに行ったらスイミング・コスチュームを手に入れて・・・・」


コスチュームって・・失礼かもしれないが、小柄な人ばかりのマレーシアで、Kさんに合うコスチュームなんか手に入るのか?私は何だか彼女の言う事に疑問を持った。


「ずっと動いていると疲れて休憩したくなるけど、ずっと座っていると疲れて逆に動きたくなるものね。言わば思いっ切り泳ぐのが休憩よ、アハハハ」


しかしその疑問も直ぐ吹っ飛んだ。Kさんも本当に細かい事は気にしない人だから、彼女なら別にコスチュームがなくても、Tシャツ姿で泳ぐぐらいの事はするだろうと思ったのだ。


「それじゃあ皆さん色々ありがとう!お元気で!」


そう言ってKさんは見送りに出た修行者たちみんなに手を振った。その姿は充実感に満ち溢れているようだった。そして到着したタクシーに乗り込むと、今、嬉しそうに天国へと旅立って行ったのであった。



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  最終更新日 2023.12.31

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